ストラクチャル・インテグレーションとは?
ストラクチャル・インテグレーションとは、米国の生化学者であったアイダ P.ロルフ博士によって開発された、身体の再教育のためのシステムです。カイロプラクティックやマッサージなど、他の手法と大きく異なる点は、筋肉や骨ではなく、筋膜と呼ばれる組織の調整に主眼を置いているという点です。
筋膜とは、骨・筋肉・血管・神経・内臓など私たちの身体を構成している器官の全てを包み込んで、それぞれの位置に支えている組織です。筋膜はよく蜘蛛の巣に例えられますが、これらの器官全てが筋膜のつくり出す複雑な網の目の中にはまりこんで支えられている所を想像してみれば、その理由が理解できるでしょう。筋膜とは、私たちの身体を支え、個人個人で異なる姿勢を形づくっている組織なのです。
[1896 - 1979]
ストラクチャル・インテグレーションのねらいは、体中に蜘蛛の巣のようにはりめぐらされている筋膜を伸ばしたり、広げたり、本来あるべき位置に戻したりすることによって、身体の配列をまっすぐに整えることです。プラクティショナー(施術者)は両手や肘を用いてこの調整を行います。適切な圧力を用いて、筋膜に本来の長さや拡がりを与えながら、身体を中心垂直軸のまわりでまとめあげてゆきます。
※ 側わんについて…2008年頃より、セッションによって側湾が大幅に改善するケースが増加しています。特に、骨変化を伴わない時期(10~20代前半)の側彎には劇的な改善をもたらしうることが分かってきました。脊柱の湾曲や胸郭・骨盤のひずみにお悩みの方は、できる限り早い時期 (身体の形状が湾曲していても骨自体の形状はほぼ完全である時期があります) に改善に取り組んで下さい。成長期を過ぎている方、中年期以降で骨変形が生じている方でも、計画的にセッションを行うことで、姿勢や動き、呼吸、精神面などに大きな変化、改善をもたらすことができます。
『 からだの配列は、なぜくずれてしまうのでしょうか?』
からだの配列をくずさせる要因は実にさまざまですが、代表的なものには、重力による絶え間ない重圧、日常生活でのストレス、過去に負ったケガ、心理的なトラウマなどが考えられます。体内を縦横無尽に走り、身体を支えている筋膜は、硬くなったり縮んだりしたまま固まることで、その身体の配列のくずれを補おうとする性質があります。
この筋膜の性質が物語っていることは、“その人は、そのバランスのくずれを抱え込んだまま、それから先の人生をずっと生きてゆくことになる” ということです。つまり、ひずみやネジレがからだに定着し、それがその人にとっての基本になってしまうわけです。
このような身体の在り方は、エネルギーの極端な浪費につながっているだけでなく、やがて慢性的な凝りや痛み、不快感となってその人を襲います。また多くの場合、このような身体のひずみやネジレに対応したような影響は、その人の精神状態や行動、態度にも反映されるようになります。
ストラクチャル・インテグレーションによって筋膜を整え身体をバランスさせると、動作はなめらかになり、活動に必要なエネルギーはより少なくて済むようになります。良い姿勢は人生におけるあらゆることをたやすくさせるでしょう。呼吸は深まり、全身をくまなくめぐるようになります。身体はより柔軟になり、各部の協調性は増し、身体機能の改善がもたらされます。そして、当然のことですが、このように身体が変化すると、その人個人の内面や生き方にも変化が起こるのです。
(c) Ronald A Thompson
肋骨の位置が変化すると、 呼吸が変化します。ストラクチャル・インテグレーションの第1回目で、私たちが身体の右側から働きかけ始めたなら、その人は、右側の呼吸が変化してゆくことに気づくでしょう。1.5倍もの空気が、右側に入ってくるのを感じるでしょう。
後々になると、この人には心理的な変化が訪れるのですが、すぐに見て取れるのは、彼がより多くの空気を吸い込んでいるということです。そしてこれは、誰にでも経験されることなのです。
肺によりたくさんの空気が取り込まれ、その交換も早まると、身体の中の全ての細胞の化学的性質が変化することになるということさえ理解できないほどに、化学についての知識が乏しい人はいないと思います。まさに私たちは、ストラクチャル・インテグレーションの第1回目、初めの10分間で、身体の中の全ての細胞の化学的性質を変化させ始めているのです。これは途方もない主張のように聞こえるかも知れませんが、他に何を主張しろというのでしょうか。
皮膚はにわかにピンク色になります。潤いは少し増しているかもしれませんね・・・ 皮脂腺が働いているのです。私たちは、これら全てを見てとります。そして、本人はすべてを感じるのです。私たちが、右側と左側との違いを感じる時間を、その人に与えたなら ――
アイダ P.ロルフ
『ストラクチャル・インテグレーションのセッションとは、どのようなものですか?』
ストラクチャル・インテグレーションは、“ベーシック10 シリーズ” と呼ばれる10回のセッションによって構成されています。これは、『 ストラクチャル・インテグレーション = 身体の構造を統合する 』 という最終的なゴールを、毎回内容や意図の異なるセッションを10回に渡って行うことにより達成してゆくためです。“ベーシック10 シリーズ” は、10回のセッションを経て身体の各部がうまく協調して機能するものとなるように、さらには身体の前面と後面、上下、左側と右側、そして深層と表層をバランスさせることによって、中心を通る垂直なラインを目醒めさせるように組まれています。通常は1セッションにつき約90分の時間をかけて、週に1回程度のペースで行われます。
セッションの中では、長期間繰り返され習慣化してしまっている動作や姿勢のパターンへの働きかけが行われます。運動神経系へ新しいインプット(再教育)をおこなうことで、それらの習慣的パターンがよりよく変化してゆくよう導くのも、このワークの大切な目的のひとつです。
また、手技による調整が行われている部位に呼吸を導き入れたり、プラクティショナーが促す特定の動作をすることで、クライアントが内側からの参加者となるのもストラクチュラル・インテグレーションの特徴でしょう。プラクティショナーが自らの手や肘を用いて行う筋膜の調整には、クライアント個人の必要性と反応を考慮した適切な圧力が用いられます。これらの調整によって生じる感覚は人によってさまざまですが、セッション時間のほとんどは温かく心地よい解放感の中にあると言って良いでしょう。
(c) Ronald A Thompson
ストラクチャル・インテグレーションは、10セッションで全工程を成します。私たちがこのような方法をとっているのには、理由があります。
私達の仕事は、部分的に身体の問題を扱うことではありません。また、何かを修理するように、『 はいこれで直った、おしまい ―― 』などと言える類のことでもありません。ストラクチャル・インテグレーションにおける私たちの目的は、人間のつくりをしっかりとゆるぎないものにすること、人間の身体を地球の重力の場において安定させ、適切な並びを持たせることなのです。そのためには、全身の筋肉をバランスさせ、しかもそれらを身体の中心を通る垂直な軸のまわりでバランスさせることが必要となります。
私が筋肉をバランスさせると言っているのは、左側に対して右側の筋肉をバランスさせるという意味です。後面に対して前面の筋肉を、さらに最終的には、最も表層の筋肉に対して、最も深層の筋肉をバランスさせるという意味です。そして、この内側と外側のバランスこそが、最も重要なのです。
ストラクチャル・インテグレーションが10回に渡って行われるのはこのためです。私たちが身体の表面から徐々に働きかけ始めて、内側と外側をうまくバランスさせることのできる場所にまでたどり着くのに、10の工程が必要なのです。
アイダ P.ロルフ
『セッションを受けると、からだはどのように変わってゆくのでしょうか?』
ストラクチャル・インテグレーションは、たいへん個人的なプロセスです。同じ人間が二人として存在しないように、このワークによって得られる恩恵もさまざまです。10セッションの結果、ほとんどの人は以前よりもスリムになったように見えますが、これは実際に1~3センチ背が高くなる(からだが本来の長さを取り戻す)ためです。また、多くの場合、不快感や痛みの緩和・消失がもたらされます。その他にも、バランスや柔軟性の向上、動作がよりなめらかで軽快になる感じ、呼吸の広がりや精神の安定感、バイタリティー(生命力)の高まりなどがよく報告されています。
ストラクチャル・インテグレーションはボディーワークであり、身体をあつかうものですが、肉体面にだけでなくその人の存在全体に影響を及ぼすことでも知られています。私たち人間は肉体だけで存在しているのではなく、感情や態度、日々の思いや振る舞いのパターンから生みだされている存在でもあるからです。全てはつながっていて切りはなすことはできません。
ストラクチャル・インテグレーションによって身体を適切に再配列することは、肉体はもちろん心理、感情、精神といった存在のすべての領域に影響を与え、“誰もが持っている本質的な可能性をひらくことにつながっている” と、私たちは信じています。
多くのクライアントから、痛みや症状の緩和、健康状態の改善、より良い呼吸や血液循環といった明らかな変化に加えて、次のような内面的な変化の報告がよせられています。
- ・ ストレスを感じることが少なくなった
- ・ 自信を持てるようになった
- ・ 自分を受け入れられるようになった
- ・ 人生の変化にうまく対処できるようになった
- ・ 以前より感動や喜びを感じることが多くなった
あらゆる年代のクライアントから、このような変化の報告がよせられています。
ストラクチャル・インテグレーションの目的とは、からだを通しての精神の最大限の現れを導き出すことです。つまり、その人の内に在るものが、人生において最大限に発揮されるための道を、見つけることなのです。
ピーター・メルキュア